僕は知らない土地をさすらっていました。なぜこんな旅をしているのかは僕にもわかりません。とにかく、気が付いたときには、僕はもくもくと歩き続けていたのです。最初は遭難しないように線路に沿って歩いていたのですが、やがて線路はトンネルの中へと入ってしまい、もしトンネルの中で電車がくると危険なので、山を歩くことにしました。気が付くと、草のあまり生えていない、そう、まるで秋の終り頃の高地のような、そんな場所へたどり着いたのです。
 そこには一軒の山小屋があり、そばには普通より高い値段設定の自動販売機もありました。ここは観光地なのでしょうか。それにしては何も見るものがありません。と、向こうの崖に数人の人影があったので話しかけてみました。

「何をしているんですか」
「なにをしているって、ここですることは一つしかないじゃないか。おまえはなにしに来たんだよ」
「いえ、僕は迷っていたらここへ来てしまって」
「そうか。俺達はあれを見ているのさ」

 崖と思っていたものは巨大なクレーターで、その円の中心ではきらきらと、僕の少ない知識で形容するならば、まるでダイアモンドダストのようにとても奇麗に何かが輝いていました。きらきら、きらきら…見ていると我を忘れてしまいます。いつまでも、いつまでもみていたい…

「いいだろう?何故、どうしてあの場所がきらきら輝いているのかは知らないが、…ああ、いいよなあ…」

その言葉で少し理性を取り戻した僕は、彼にお願いをしました。

「すみません、山を下りる時は、僕もいっしょにつれていってくれませんか」
「俺は帰らないよ。もうしばらく、ここにいる…」

 みんなただ静かに、ずっときらきらを見ていました。このきらきらに不気味さを感じて、僕はさっきの山小屋まで戻ることにしました。自販機でジュースでもと思ったその時、青い、長い髪の少女が話しかけてきました。

「お金、持ってるの?」
「…え」
「ねえ、だったら、助けてくれない?」
「よくわからないけど、僕をふもとまで連れていってくれるなら…」
「ありがとう!えっと、協力してもらいたいのはね、この紙に書いてあるところへ行って、そこにある『黒い板』を持てるだけ持ってきてほしいの。わたしじゃ重くて、たくさん持ってこれないし…」

紙を見せてもらいました。よく覚えてませんが、とても遠い所だったような気がします。

「ど、どうやってこんな遠くまで行くの?」
「それは、これを使うの」

そういって少女は、ガラスの空き瓶のようなものを取り出しました。

「これに燃料をいれて、手で蓋をして、強くふるの。そうすると空を飛べるんだよ。これで貴方もこの山を降りれるでしょ。協力してくれたら、これあげるよ」
「燃料がないの?」
「そうなの。その燃料っていうのが、あそこに売ってる炭酸なの。でもお金なくて…」
「あそこにいる人たちは協力してくれなかったの?」
「あの人たちはもう手遅れなの。見ればわかるでしょ。頭をやられてしまっているの」

僕もそれはうすうす感じてはいましたが、第三者から言われて納得しました。

「とにかく、そこで炭酸系を買えばいいんだね」
「ああ!でもコーラだけはだめよ、不純物が多くてあまり飛ばないから…」

僕はサイダーを買って、不思議なビンに移し替えました。そして手で蓋をし、強く振ったあと、魔女がホウキに乗るようにビンをまたぎました。僕はふと不安になって尋ねました。

「ねえ…ほんとにこれでずっと飛ぶの?」
「うん。パパは発明家だったの。それはあたしが五才のときの誕生日プレゼントだったんだよ。手を離して。地面を両足で蹴ってみて」

おそるおそる手を離してみました。サイダーは吹き出しましたが、いつまでもその勢いは衰えることなく、むしろ、だんだん強くなっていって…

「うわ、も、もう限界だ。じゃあ、行ってくるよ」
「お願いします!」

たんっ。

ゴーーーーー

 風に包まれて、一瞬息ができなくなりましたが、ぷはぁっと楽になったとき、僕は空を飛んでいました。下を見ると、山小屋やクレーター、あの不気味なきらきらも少しだけ見えました。吹き出すサイダーが、空中で太陽の光をいっぱい受けて輝いていました。

 そこからはあまり記憶がありません。どれくらいの時間がたったのか、気が付くと黒い板を持てるだけ持って、もとの場所へ戻っていくところでした。地面につくと少しふらふらしました。ずっと向かい風を顔にうけていたせいか、ぽおっと顔が熱くなりました。少女が近づいてきました。

「お帰り。ちゃんと取ってきてくれたね、ありがとう!でどうだった、それの感想?」
「あまり、、というか全然覚えてないや。なんかすごいね、これ」
「当然。…パパの作ったものだもん」
「あはは‥、あ、これ渡すよ。ところでこれ、なんに使うの?」

 渡した板を、なんと少女は食べ始めました。とても苦しそうでした。何枚か食べたあと、残りの板はまるで鎧のように体に身につけていきました。

「な、なにを」
「パパは発明家だったの」

 少女はいままで見せなかったような深刻な顔をして話し始めました。

「たくさんの発明をしたわ。人に夢を与えるんだって。パパの発明は奇抜だから、ひとつの物が完成するまでたくさんの実験をした。動物を使ってたこともあった。そのうち、まわりに実験の被害が及ばないようにって、この誰もこないようなところにラボをおいたの。でもある日、最悪の事態が起こってしまった。…あのクレーターのあるところは、昔、ラボのあったところなの」

クレーターに目を向けました。事故の壮絶さが容易に想像できました。

「その様子はふもとからも確認できたわ。私はママに連れられて、何人かのおとなと一緒に様子を見に来たの。でもラボもパパもすでにかたちすらなくて、かわりに‥あのきらきらがあったの。ママはそれに近づこうとして踏み外して死んじゃった。ほかの大人の人は…あの通り」
「あのきらきらも、君のパパの発明だったの?」
「うん。パパの最後の発明。見ているだけで幸せになるきらきら。でも、ちょっと効果が強すぎるでしょ?強すぎる光は闇と変わらない。あれは、パパやママ、あの人たちを不幸にしたの…」
「君は、これからどうするつもりなの?」
「あれを壊しに行くの。パパは失敗作はいつもすぐ処分していたわ。私も、人を不幸にするパパの発明品があるのがいやだから…」
「…わかった。僕も手伝うよ」
「だめです。あなたは山を下りてください。この黒い板でなんとかあのきらきらの影響を防ぐことはできるけど、あれを壊した時には何が起こるかわからない…、だからせめてあなただけでも生き残ってください」

そう言うと少女は笑顔で、

「協力してくれて、ありがとうございました。これ以上あなたに、迷惑はかけたくないから…」

 そういうと少女はいきなり何かを僕に投げてきました。僕は思わずそれをキャッチしました。それはあの空飛ぶビンでした。あっと思う間もなく、僕は空に投げ出されました。僕は遥か下方に向かって力いっぱい叫びました。

「絶対、必ず、ここに戻ってくるから!約束だ!」

 …目が覚めるとそこは、トンネルの入り口でした。僕は何故こんなところで寝ていたのだろうと、不思議に思いながら、ずきずき痛む体を必死に起こしました。つうっと僕の顔を何かが伝います。泣いていました。何か大切な事を思い出そうとしましたが、何も覚えてませんでした。

 腕で顔を拭い、夢でも見てたのかなと思い、出発しようとした時、なにか道にきらっと光る物が目にとまりました。
 それは、ガラスの破片でした。僕はそれがなんだか大切な物のような気がして、ポケットにしまいこんで、トンネルの中を歩いていきました。




 これ書いたの確か18の時。そん時見た変な夢に脚色加えて書いたもの。そしたらやけにプログレッシヴな童話もどきができあがった。恥ずかしさを堪えて公開。
 ちょっと前まで結構変な夢見てたんだけど、最近は現実的な夢ばっか。楽しくても、哀しくても、怖くても、エロくてもよいので変な夢もっと見たいなぁ。
 また変な夢見たり、適当な小話を思いついたら、この「発条夢」シリーズで書いていきたいと思いつつはや4年。文章を書くのに没頭できる日はいつくるのか。頑張れ自分。
あとがき執筆:2002年8月17日